歩行のすすめ
歩くことが、昔から体に良いことは良く知られている。人間は歩く動物だと言っても過言ではない。又、歩くことは、ボケの予防?にもなり、ボケた人にとってはボケの進行を遅らせることは間違いない。というのは、歩くことは皆さんが知っている以上に、脳の刺激になっているという事です。若い頃運動した人としなかった人の、年を取ってからボケる確率は ” 6分の1 ” と言われています。 例外はありますが、高齢者になって歩けなくなると急激に体の生活機能の低下することは、皆様ご存じの通りです。
しかし、歩行が本当に体にとって良いかどうかについては、具体的なデータはありませんでした。
少し古くなりますが、『New England journal of medicine』という世界で最も権威ある臨床医学雑誌1998年1月8日号に、退職したハワイの日系アメリカ人を対象とした1日の歩行量と寿命との関係を明らかにした臨床研究が掲載されているので紹介したいと思います。
この調査の対象となったのは、61才から81才まで(平均68.9±5.1)の707名の退職者で『男性であること』『たばこを吸わないこと』『健康で自分で歩行することが可能なこと』がこの調査研究に参加への条件となっています。
調査には、1980~1982年にわたって行われ、対象となった707名の男性に対して、1日平均歩行距離を自分で記録してもらい、その後に12年間にわたって707名の中で1マイル(約1.6km)以下しか歩いていない人は、151人中65人(43.1%)が死亡。一方、1日1マイル以上歩いている人は、556人中143人(25.7%)が死亡しています。
この両群間で、調査期間の年齢に関係なく統計的に見ると、「1日1マイル以下しか歩かなかった人(以下、1マイル以下歩行者)』と『1マイル以上歩く人たち(以下、1マイル以上歩行者)』の間で、平均寿命に明らかに有意の差があったとのことです。
なお、死亡した人の死因としては、心筋梗塞などの虚血性心疾患によるものが29人、一方、癌による死亡者は52名と、癌による死亡者の方が虚血性心疾患の死亡者より多かった。この調査の対象者となった人達が調査開始時61才以上だったからと考えられます。
そこで、虚血性心疾患による死亡の割合を1日歩行距離で比較すると ” 1マイル以下 ” は ” 1マイル以上 ” より寿命が短い傾向が見られたが、対象者数が少ないので、その差は統計的に有意の差はありませんでした。
一方、最も多い癌による死亡者を対象に比較してみると、 ” 1マイル以下 ” の死亡率13.4%に対し ” 1マイル以上 ” の死亡率は5.3%で、有意の差があった。歩くことにより、なぜ癌による死亡が減るのかは、この調査では分からないと言っておりますが、誠に興味ある結果です。
いずれにしろ、この調査は高齢者にとって歩くことが、如何に健康に良いことかということを、初めて証明した報告です。
即ち、歩くことが最も手軽かつ安上がりな健康法であるので、是非お勧めしたいと思います。
私は、患者さんは、家庭の主婦の場合、天気が悪いか荷物が多い場合を除き、買い物に行く時は歩いていくとか、バスを利用する場合は、一駅か二駅歩くこと、サラリーマンの場合は、勤務途上の終わりか始めの部分を歩くとか、日常の場合は、その仕事の内容にもよりますが、何とか仕事中に1~2km(1マイル以上)歩かざるを得ない状況にする事が肝要かと考えております。
また、歩くことは、日常のストレス解消にも繋がると思います。