みらい在宅医療総合クリニック水戸

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手術の話

 今朝の新聞を見ると新聞広告の週刊誌の見出しに、『医師に勧められても止めたほうがよい手術』等の見出しが躍っていました。
 私は全ての医療行為をしないで済むのならしないほうが良いと思っています。自然にまかせて治癒させるのが一番良いと思います。薬を飲む、手術をする等しないで済むのなら、その方が良いと思っています。
 辛い、痛い、苦しいなど、自覚症状が来る場合、それを和らげるために “なでる” “さする” 等の処置を行ったのが医療の始まりだと思いますし、それを和らげるために何らかの物質を与えたり(くすり)、処置(手術も含む)をするのが医療です。
 私は、医療とは患者さんにとって一番良いと思う事をすることだと思っていますが、私が若かった頃は医師がそれを決めていましたが今は違います。患者さんと相談して一番良いと思う事をするのが医療です。なかなか“一番良い”と思うことが分からないことがあるから、前述の見出しのようなことが言われる訳です。
 手術は何ともないところに傷をつける訳で結果が悪ければナイフで刺すのと同じです。薬も結果が悪ければ毒薬と同じです。江戸時代の蘭方医大江雲沢が“医は不仁の術、努めて仁なさんと欲す”と言っているとおり患者さんと信頼関係が無ければ成立しません。手術をしたほうが良いかどうかは、手術することによって得る利益と手術することによって失うマイナス面と比較し、“得る利益”が多い場合が手術の適応となります。だから医師に良く説明を聞いて判断すれば、自ずからやったほうが良いかどうかわかることが多いと思います。迷った場合はセカンド・サードオピニオンを聞き判断するしかありませんが、我々医師でも迷う場合が多々あります。結果がまずかった場合の例を挙げ前述の見出しが書かれているのだと思います。人それぞれ違うので、皆同じではありません。予後が良い(手術した結果が良い事)と予測されるものはしたほうが良いと思っています。悪いかどうか分からない場合、命に係わる程ではないが結果は見る人によっては、また患者さんにとっては不満の残る場合があります。
 悪性腫瘍の場合は、予後が悪い事が多いので大変悩ましい。どんなに早期に発見してもどうしても助からない場合もあります。どんなに手遅れでほとんどの医師が「どうしようもない」とさじを投げたものでも手術して助かる場合もあり、このような例を挙げて『断ったほうが良い』と言っているのだと思います。
 医師の場合は、患者さんの状態が悪くて手術できないか、または患者さんが高齢の場合は、手術する方が良いか保存的治療が良いかと考える場合もありますが、多くの医師は座して死を待つか、または積極的に行うかで迷った場合、手術する方を勧める事が多いので、患者さんはなかなか判断できないと思われます。栃木県立がんセンターに相談できる外来がありますので、迷うときは相談することをお勧めします。
 我々医師にとって、早く治療(手術)していれば助かる可能性が高かった命が、みすみす自然に任せて亡くなっている例が多々あると言われているので、結果が出る前に結果を予測することは大変難しく、悪かったからといって「しない方が良かった」と言っても仕方がないので、要は説明をよく聞き理解して、悔いのない医療を受けるようにする事だと思います。

医療法人社団 医宝会
理事長  宝住 与一