ドーピング
ベンジョンソンが、ソウルオリンピックの100m競争で、当時としては驚異的と言われた9秒76の世界新記録でカールルイスを圧倒して1位になり、金メダルをとり、尿検査で陽性反応が出て、メダルを剥奪され陸上界より追放された話は有名な話です。
私は、1週間も飲まなければ、尿検査では引っ掛からないと思うし、何故オリンピックの前に、1週間も飲むのを我慢できなかったのだと “ 十字架を背負った男 ベンジョンソン物語 “ を書いたスポーツライターの友人に聞いたところ、「麻薬と同じで飲まないと不安で不安でいられなくなる」との話でした。
その著者によると、何故、薬まで飲んで勝たなければならなかったという事については、ベンジョンソンはジャマイカの市役所に勤める官吏の家に生まれ、アメリカ、カナダの投資家がすべてを保障してカナダに移住帰化し、一流のコーチをつけて練習に励んだ。そして、当時、どうしても勝てなかった相手、カールルイスに勝つために、コーチから「これを飲んでみろ」と言われスタノゾール(蛋白同化ホルモン。日本でもウィントマイロンの薬名で山之内製薬から売られていた。)を飲んで、カールルイスに勝った事から薬の服用を始めたとの事でした。そしてカールルイスに初めて勝った時、カールルイスがベンジョンソンに「強くなったな。おまえ何を飲んでいるんだ。」と言われたと書いてありました。
もう書いても差支えないと思うので書きますが、東京オリンピックの重量挙げのメダリスト、三宅さんも飲んだとは言いませんが「飲んだんじゃないのか」と言ったら、強く否定しなかったと言っていました。
体の運動能力の落ちた人の運動能力を高める、向上させるというのは、高齢者、障害者の機能回復訓練において、我々整形外科医が取り組む基本です。それを運動能力のある人をより強くするのとどう違うのか考えた時、共通点は大変多いと思います。
私は、運動能力の弱った人を強くするのは、運動能力の強い人をより強くするのと、医師としてやることは同じです。
ただ、我々整形外科医の最終目標は、体の機能が落ちた人は日常生活動作が自分で出来るようになる迄、又、怪我をしている場合は、怪我をする前の状態迄で、余り弊害は起こらないと思います。強い人をより強くするというのは、目標が際限なくなり、その人の自然に備わった能力以上を出そうとする訳で、なかなかその人の自然に備わった能力を限界ギリギリを探るのは難しいですが、限界までやる事になると思いますので、弊害は生まれる可能性はある訳です。
例えば、心臓が弱い人に心臓の働きを強くする薬を投与するのは良いですが、例えば、心臓の悪くない競争馬に使うとすると、普通の状態よりその時だけ心臓の機能が良くなるわけで、普通競走馬が最高の速力で走る距離は1ハロン約200mと言われていますが、その競走馬に心臓の働きを強くする薬を投与すると、最高の速力で走る距離が何10mか伸びると言われています。人間でも同じです。最高のスピードを出せる距離が小し長くなるということは少し早めにスパートできる訳で、実力伯仲の選手の時は大変な効果があると思います。
なかなかドーピングは検出するのは大変ですが、我々が、日常使っている薬でも結構引っ掛かる薬があるので、正式のスポーツ大会に出る運動選手へ薬を投与する場合は、気をつけないと大変です。
自分の備わった以上の能力を出す為に薬物を使用する事は、体に良いかどうかは自明の理と思います。